名古屋から約30分の秘境駅「定光寺駅」

名古屋から東京へ繋がる中央線。
名古屋に近い区間は、ベッドタウンと名古屋都市部を結ぶ通勤路線の色が強いが、春日井市の高蔵寺を過ぎると一気に険しい山間に入っていき、岐阜県の多治見などへと繋がる。
多治見までの県境越え区間は崖に張り付く様に進み、民家も少ない区間だが、定光寺駅や古虎渓駅が存在する。

定光寺駅は特に地形が険しい場所に造られ、また中央線の愛知県内区間で末端の駅となる。
そんな名古屋から30分ほどでたどり着ける”都市圏の秘境駅”に行ってみる事にした。


高蔵寺駅より、多治見方面の普通電車に乗りこむ。
(名古屋から直通の普通電車もあるが、休憩に下車したため。)

名古屋を出て春日井あたりまでは混んでた電車も、高蔵寺を越えるあたりでだいぶ空いてくる。

高蔵寺周辺は名古屋のベッドタウンとして発展している。
(少し南へ下ればすぐに名古屋市に入る。)
元々は山の手前で高低差がある地域のため、駅からは上へ上へと並ぶ住宅地が見える。
北側にもニュータウンが開発されかなり発展しているが、駅側からは台地越しで見えなくなっている。
駅から北東側には航空自衛隊の高蔵寺分屯基地が設置されているため、それを避ける様に山の周りが開発されていっている。

高蔵寺駅では、愛知環状鉄道が分岐する。
愛・地球博の際に直通運転を行う様になり、さらに元は高蔵寺付近では単線だった愛知環状鉄道が複線化されて現在に至る。



高蔵寺を出ると、一気に山間に入っていく。

高蔵寺を出て3~4分ほど、トンネルを抜けた先に定光寺駅がある。
現在の中央線のルートは開通当初からトンネルの付け替えが行われているため、定光寺の駅からも古いトンネルが現ルートのすぐ横に残っているのを見る事ができる。

中央線は土岐川に沿って進み、定光寺駅まで来ると渓谷の壁に張り付くような形になる。
線路の下には駅前までつながっている県道もあるが、メインとなっているのは土岐川の向かい側(左岸)を通る愛岐道路。
多治見方面へと抜ける道路として、交通量はそれなりに多い。

一方で定光寺駅まで来ると民家はあまり見られず、駅の利用者も多くはない。
一応、定光寺駅は春日井市内となるのだが、肝心の定光寺は川を渡った先の瀬戸市にある。

ホーム長は長いが、駅の施設は簡素なもの。

多治見方面側のホームはすぐ背面に崖が迫っていてかなり狭く、駅の入り口は反対側にあるため、地下道を通っていく事になる。

自動改札は設置されておらず、切符回収箱と、ICカードの簡易改札機が置いてあるのみ。
すぐ隣の高蔵寺は中央線の名古屋圏でも主要駅であるし、この駅も車で5分も行けば多くの人が住むニュータウンなのだが…
定光寺駅には駐車場スペースもなく、普通電車が少なくなるこの区間では1時間に2本ほどしか電車も止まらないため、高蔵寺駅に出てしまうのが圧倒的に楽。
よほど近くの人を除いて、わざわざこちらに来る人は少ないのだろう。

もちろんエレベーターもエスカレーターも無い。
駅の入り口には、ホームへと昇る長い階段がそびえ立っている。

「名所案内」の看板は半分ほど消されている。
元々は定光寺駅周辺は観光地としてにぎわっていたらしい。
駅前に旅館跡が現在でもそのまま残っているが、すでにその面影は無く、旅館街としてはすでに役目を終えてしまっている。

元々観光業でにぎわっていただけあり、確かに景色は素晴らしい。
写真左側、崖上に見えるのが定光寺駅で、すぐ下の狭いスペースに住宅や店舗が並ぶ。
空き家らしき家屋やすでに閉まっている店跡らしき建物も多いが、一部はまだ残っている。
喫茶店には地元のお客さんらしき人達がいた。

駅前通りの西側にある大きな建物は「千歳楼」。
経営者が失踪してそのまま廃業、周辺地域では心霊スポットとして有名になってしまった。
しかも、リアルに白骨死体が見つかってしまった過去もある。
すぐ横の建物は火災で燃えてしまっているが、そのまま放置状態。
不法侵入者に放火されてしまったらしいが、その跡が放りぱなしにされている様子がさらに物寂しさを助長する。

また、無理やり町をつくった事が分かるのが、駅前を流れる水路。
定光寺駅より少し上流にある「玉野堰堤」からの水路が中央線に沿って流れてきているのだが、なんとその上に家が建っている。
正面に立つと普通の家屋の様だが、ところどころ水路が顔を出している部分があり、家と家の隙間から水の流れる音が聞こえてくる場所も。

駐車スペースもほとんど確保できないためか、水路の上にガレージがある。
やはりここに住む方が作ったのだろうか…



この駅周辺だけを見ると一見秘境駅だが、名古屋から来るのは簡単であり、渓谷を過ぎた先の多治見も比較的大きな街であり、車窓の移り変わりが激しい。
街を抜けてきたところにいきなり現れる自然溢れる渓谷の景色は、名古屋から30分でたどり着いたとは思えない魅力的な場所であると思う。

定光寺駅周辺は、普段は閑散としているが、愛岐トンネル群のイベントなど多くの人が集まる機会も年に何度かある。
自分が訪れた際にも、地元民と思われる人以外に、鉄道ファンと思われる人が見られた。
旅館街としては廃れてしまったが、また別の魅力を残している地区の様だ。

普通電車しか止まらないため、普段通過するけれど降りたことは無いという中央線ユーザーも多いのでは…