短いながらも特色ある「名鉄築港線」は、名古屋発展の歴史の生き証人

大江駅は名古屋市南区にある、常滑線の駅。
名鉄名古屋本線と分岐する神宮前駅からは3駅であるが、ビルや商業施設の並ぶ都心の雰囲気は薄れて、工業地帯の色が濃くなり始める。
常滑線の中で退避施設がある駅では最北となり、また築港線が分岐する、小さいながらも重要な拠点となる駅。
その築港線は名古屋と名古屋港東部の工業地帯を結ぶための路線であるが、色々と特徴的な路線となっている…



1.電車に乗る前に改札を出る?

大江駅では、常滑線ホームの西側に、築港線専用ホームが造られている。
築港線は基本的に通勤特化の路線であるため、朝夕にしか列車は走らない。
そのため築港線に乗れるのは6時台から8時台、16時台から9時台のみで、時刻表の昼部分はまっさら。
橋上の通路に築港線の改札があるが、お昼時になると改札口は仕切られていて、ホームへは入れないようになっている。

ここで不思議なのは、大江駅の改札を入ってきた中に、先に出口があるのでもないのにさらに改札があるという事。
他社の路線という事ではなく同じ名鉄線であるのに…
改札の上の看板をよくよく読んでみると、「当改札口は東名古屋港駅の出場用改札口です」とある。
ここは大江駅構内であるのに、東名古屋港駅の出口…
というのも、築港線の駅はこの先終点である東名古屋港駅一つのみなので、大江駅から乗る乗客は絶対に東名古屋港駅で降りるし、大江駅に着く乗客は全て東名古屋港駅から乗ってきた人たちと決まっているため、それぞれの駅で切符をチェックする必要が無い。
本来なら東名古屋港に設置される改札を大江駅内に造り、東名古屋港駅の設備を最小限にし、改札の設備は大江駅内で管理してしまっている。
そのため、前もって東名古屋港駅改札を出た後で電車に乗って東名古屋港駅に向かう、という不思議な形式になっている。

一緒に書かれた注意書きの通り、あくまで東名古屋港駅出口であるため、こちらの改札(駅西側)から大江駅外で出る事はできない。
駅東はロータリー及び駐車場があるが、西側は側線や鉄道技術研修センター(矢作建設)の土地となっている。



2.珍しいダイヤモンドクロッシング

大江駅のすぐ南側では、県道55号が常滑線を跨いでいる。
常滑線より東側には飲食店や住宅が見られるが、西側はすっかり工業地帯になる。
大江駅を出ると、築港線は大きく西側にカーブし、その後は県道55号に沿って進む。
東名古屋港駅までは約1.5km。

沿線の途中には様々な企業の工場やプラントなどが並び、掲げられている社名はどこかで見た事がある会社ばかり。
工場に出入りするダンプやトラックが頻繁に走っていく。

ふと踏切周辺を見てみると、道路の舗装は結構荒れている…けれど、丈夫な大型車がほとんどで普通車は少なく、おそらくここを通るような地域住民もほとんどいなさそうなので、維持管理上あまり問題は無いのかも。

県道55号を道なりにしばらく進むと、遮断機の無い踏切が見えてくる。
ここでは名古屋臨海鉄道東築線が南北に横切っているのだが、県道55号のすぐ横には築港線が並行している。

そのため、この地点では珍しいダイヤモンドクロッシングとなっている。(2つの路線が十字に交差する。)
ドラマ「名古屋行き最終列車2017」でも取り上げられた有名な場所。
ダイヤモンドクロッシングを含めてその先は名電築港駅の敷地となっていて、東名古屋港駅手前から分岐した築港線の引込線と東築線が合流している。
東築線は東港駅を経由してJR東海道線笠寺駅に繋がるため、築港線へ名鉄向けの車両を搬入する場合や、輸出用の車両を輸送するのに使われるが、定期列車の運行はされていない。

また、名電築港駅のスペースを利用して廃棄車両の解体が行われるとの事。
特別設備らしいものも無く、名鉄が貨物を扱わなくなった今では貨物駅として使われる事は無くなったものの、未だ役割を持つ駅となっている。
築港線に列車が走るのは朝夕のみ、東築線は列車が通る事自体稀な事であるものの、あくまで企業の土地であるため侵入はしない様に…



3.線路は続くよ港まで

名古屋高速(4号東海線)が目前に見えてくると、その手前にある小さな駅が東名古屋港駅。
先の通り、東名古屋港駅の改札は大江駅内にあるため、東名古屋港駅には機器は設置されていない。
壁にもしっかり「乗車券は大江駅で改札いたします」と掲示されている。

しかし終点の駅ではあるが、その先も線路は続いている。
旅客を取り扱う区間内と異なり非電化となっているが、その先の大江埠頭まで線路自体は続いている。

東名古屋港駅のすぐ西側は交差点になっているが、普通ならば横断歩道があるべきところにレールが延びているため、交差点を横断する場合は歩道橋を渡る。
道幅が広いため遮断機の類は設置されていないものの、警報機はきちんと設置されている。

交差点から線路の先を見てみれば、まっすぐ伸びる線路と、ほどよく荒れた線路脇。
工場地帯であるため周りに歩行者は少なく、線路を眺めながら歩いているとなんとなくスタンドバイミー的な気分になれる(?)

日常的に列車が通るわけではないが、現役の路線であるため信号機はしっかり機能している。

築港線からそのまま延びる線路ではあるが、基本的には前述した東港線からの輸出用車両が港へ向かうための路線となっているらしい。
かつては、築港線は貨物路線であるとともに、名古屋港の埋め立て地整備のため、多くの列車が築港線を利用して出入りしていた。
伊勢湾台風で被災する以前は築港線が複線となっていた時代もあったとの事で、貨物輸送、港開発のための重要なルートだった。(1991年から2004年まで、複線だった跡のスペースを利用して、築港線に沿ってリニアの実験線が造られていた。)
現在の築港線はすっかり通勤用路線となっているが、以前は現在の東名古屋港駅の先に広い貨物駅が存在しており、また、周辺企業へ直接貨物が入れるよう支線も作られていた。
後に名古屋臨海鉄道が開業し、貨物の拠点、輸送ルートとしての役割はそちらに譲ることとなった。

道路沿いに線路を追っていくと、海にたどり着いて道路が途切れる手前で線路は大きくカーブする。
埠頭直前、道路の北側は現在駐車場になっているが、この周辺が元の貨物駅跡。

現在は貨物駅から埠頭に延びる引込線が残るのみで、これまで並走してきた道路を横切って、線路は埠頭内へ入っていく。
2017年3月時点ではゲートの改良工事が行われており、線路は土のう積みで途切れていた。



以上、築港線に沿って歩いてきた記録でした。
名古屋の産業発展のため、通勤路線に姿を変えながらも今なお活躍している。
工業地帯ゆえに何か観光資源があるわけではないものの、端々から名古屋の発展の歴史を感じる事ができる路線だった。